竹中工務店時代のデビュー作「神戸国際中学校・高等学校 河野記念アルモニホール」で2013年第3回鈴木禎次賞を受賞しました。ゼネコン設計部や組織設計事務所など制約条件が大きいなかで実質的に設計を担っている若手建築家の作品を評価し、新しい芽を育てていこうという主旨の賞です。この度、8回分の受賞者の受賞後のありかたを綴った特別記念本を作成いただきました。そこに寄稿した、学生時代からこれまで建築において考えていることをまとめた文章を載せます。
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学生時代や受賞作品設計時から今日まで、どのようなことを考えながら建築に臨んできたのか、整理する機会にさせてもらいたい。考えがかろうじて言葉になった程度の読みにくい文章であることをご容赦願いたい。
「場から滲み出してくる建築」をつくりたいということは学生時代から常々考えていた。その建築が全体として感じられるようにしたい、そのためには「建築が現象化している」必要があると考えていた。大学院生の時に、現象化建築というテーマで自主ゼミや展覧会を開き、現象を次のように定義した。現象とは、人が建築に訪れたときに、建築の物質性が昇華化され、部分ではなく、ひとつの全体として感じられる体験のことである。その体験者にとって、重層的性質をもつ現象を言葉にすることは難しい。


受賞した神戸国際中学校・高等学校 河野記念アルモニホール(写真1)の設計がスタートしたのは入社3年目1月、竣工は入社5年目5月。周辺環境を取り込む構造形式や巨大なスケールの柱による現象化など、自分が学生時代から考えてきたことが完全ではないものの実現できたプロジェクトであった。
その後、シスメックス女子陸上部の寮や竹中大工道具館新館(写真2)、コイズミ照明R&Bセンターの設計に携わった。これらは共同設計という特性が強いが、道具館について少し述べたい。道具館は、六甲山を背にした新神戸駅前に残された緑のオアシスを建築へと引き込んだ。さらに設立趣旨でもある日本の類稀な職人技術の伝承として様々な職人技を建築の随所にちりばめ、それらが調和した空間を目指した。この時、「場」の側面からは緑を引き込んだことしか語れないことにモヤモヤとした。


8年9ヶ月竹中工務店にお世話になり、独立して9年目。現在は公共建築、民間プロジェクト、住宅、リノベーション、家具デザインまで幅広く手がけている。
最近、道具館の時に感じた「場」の捉え方についての不自由さを解決する糸口を見つけつつある。これまでは「場」を狭義な意味で、その場の自然環境や周辺環境など物理的な側面に限定していた。実在する建築の拠り所は、実在するものであると決め付けていた。しかし、場には自然・地理・風景・歴史・都市構造・交通・文化・風習などがあり、その総体として人々が感じる現象としての「場」を起点にしようとしていることに気が付く。つまり、与条件側の「場」も一旦、現象として捉えようとしている。その場には願いや不安、畏怖、個人の過去や将来のような目や言葉では捉えにくい軸も入る。
この側面から独立後の作品を振り返りたい。
独立後すぐに完成した福井銀行WiL Women’s inspiration Library(写真3)。商業施設のテナント一区画で、働く女性を応援するライブリーである。ユニークな形状の穴が穿たれた一枚の大きなテーブルでは、個々が思い思いの場所を見つけ振る舞うことができるのと同時に、一つの大きなテーブルに集うことでどことなく絆を感じることができる。このプロジェクトには光や風、雨など、狭義の「場」の特徴が無い。そこで、福井県は女性の社会進出の割合が全国的にも高く、「働く女性」が多いというイメージを拠り所とし、少しでも女性の生きる活力になる場を計画したいと考えた。テーブルなのかソファーなのか、単語では表せないものをつくることで現象となるよう試みた。

オセロハウス(写真4,5)。一般的な住宅地にあり、お隣にご両親が住む。密集して住むことの憂鬱さや、住み続けられるかという将来の不安のようなものが、知らず知らずのうちに緩和されるような空間づくりに取り組んだ。1階と2階の機能を組み換えることで、周辺の住宅と1、2階での生活時間が逆転する。将来はご両親宅とつなぐことが可能な計画とすることで、永くまちに住み続けられる可能性を探った。


プロポーザルで指名された大阪メトロ動物園前駅グランドリニューアル(写真6)。ホームのタイルに描かれた動物は大阪のアイデンティティーと言っても過言ではない。駅を通るたびに見える動物たちは愛くるしく、動物園前駅のイメージを作り出してきた。その描かれた動物たちがよりいきいきと見えることが、築き上げられたイメージをアップデートすることにつながるのではないかと考えた。グラフィックの新しい動物たち、自然界のような光の移ろい、動物たちの鳴き声、ムラのある仕上げなど、既存タイルの動物たちが楽しく動き出すような空間づくりを心がけた。

魚津市室内温水プール(写真7)。魚津の地に立つと、東に迫る立山連峰と西には雄大な日本海が佇み、圧倒的な自然に優しく包み込まれ、何度訪れても感動する。そんな圧巻のイメージを、25mスパンをCLTの木梁で飛ばし、プール内もギャラリーも連続的に広がるおおらかな空間で表現し、むくりをもった木の梁で利用者を優しく包み込む空間を作った。

このように場の漠然とした現象を分解して捉えて、具体的な建築手法やエレメントやその調和により、具体的な建築(実在)をもって、漠然とした現象を構築する。その元ある場の現象と、作り上げた現象のお互いが響き合うということを目指している。そのために日々、実在と悪戦苦闘している。
最後に、隈研吾先生をはじめ審査員の先生方に深くお礼を申し上げたい。受賞により自信を持つことができたのは、その後の設計活動に大きな影響をもたらしたことは言うまでもない。まだまだ漠然としているが、今後も自己の探究をしながら作品をつくっていきたい。



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